【私の視点 観光羅針盤 292】2年ぶりのG7サミット 石森秀三


 G7サミット(先進7カ国首脳会議)が英国・コーンウォールで2年ぶりに開催された。

 先進国首脳会議は1975年に日米英仏独伊の参加によってG6の形で始まった。73年のオイルショックとそれに続く世界不況の解決を図るためにサミットが開催され、76年からカナダが参加してG7になった。今回のコーンウォールでのG7は47回目のサミットになる。

 2017年に米国第一主義を標榜(ひょうぼう)したトランプ前大統領の登場によって、G7サミットは混乱続きに陥った。

 トランプ氏は基本的に反欧州であったために地球温暖化や貿易問題で激しく対立し、米欧関係は大きなダメージを被った。国際協調主義を標榜するバイデン大統領の登場によって、G7は新興国からの批判を受けつつも本来の先進国連合としての役割を果たせるようになった。

 2年ぶりのG7で最大の焦点になったのは中国問題であった。首脳宣言では、中国に対して新疆ウイグル自治区や香港での人権尊重、東・南シナ海の現状への深刻な懸念表明、台湾海峡の平和の重要性を強調、両岸問題の平和的解決を促すなど、相当に踏み込んだ意見が盛り込まれた。

 されど中国問題の扱いについては、米英日と独仏伊の間で温度差が明瞭であった。中国の覇権主義に対して厳しく対峙(たいじ)する米英日に対して、独仏伊は中国と良好な関係を維持したいために温度差が露呈した。

 議長国の英は豪印韓南アの4カ国を特別招待して、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の重要性を演出し、首脳宣言でもFOIPの重要性が明記された。人権問題と共に台湾問題とFOIPが首脳宣言で強調されたことに対して中国は強い遺憾の意を表明しており、今後の中国の出方が注目される。

 中国をけん制しつつ、深刻な紛争が生じないように最大限に尽力するのは日本の役割になるが、日本の外交力は万全であろうか?

 この他、気候変動、途上国開発支援、サイバー攻撃の脅威、ジェンダー平等など多様な課題について数多くの宣言が盛り込まれたが、観光分野との関わりではワクチン問題が最も重要であった。

 コロナ禍は地球規模の最重要課題であるにもかかわらず、先進国がワクチンを独占していて、途上国が利用できるワクチンの量は全く足りていない上に、途上国では医療・物流インフラの欠如という障壁もある。バイデン大統領は率先して5億回分のワクチン供与を表明し、G7全体として途上国に対して10億回分のワクチン供与を決めたことは評価できる。

 先進国のワクチン独占体制を改め、国際協力を強化して地球全体でコロナ撲滅を図らない限り、「自由な国際移動なき未来」が現実化しかねない。そのためポストコロナにおける観光復興に向けて大きな前進になった。

 首脳宣言では「新型コロナに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で東京オリパラ大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する」と明記されている。とはいえ「安全・安心の確保」は極めて実現が容易ではない難業苦行であるために、ただただ東京五輪変異株が新たに生じないことを祈るばかりである。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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